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Study

GYNアトラス第3節

上皮内病変および悪性所見なし
Jacalyn L. Papillo, BS, CT(ASCP) & Pamela Smith Piraino, CT(ASCP)

ベセスダ2001の「上皮内病変および悪性所見なし」という診断分類は、形態学的変化の幅広いさまざまな良性所見を網羅するものです。異型扁平上皮細胞の診断を行うには特徴に欠ける変化が見られることが多く、重症に至るかどうかもわかっていません。年齢、最終月経日、ホルモンの影響、感染症治療薬の有無、異型性の既往ないし治療などの因子が細胞学的所見に影響を及ぼします。適切な情報が必要であり、診断を下す際に注意を払う必要があります。

ThinPrep法または従来のパパニコロー標本を利用する際には、何が「正常」なのかをしっかり把握しておく必要があります。前章で標本の適正度を示す部分に掲載した写真からわかるように、ThinPrep工程では正常扁平上皮細胞と正常頸管細胞の細胞学的所見を大幅に変化させることはありません。しかし、以下の領域で少し詳しく述べたいと思います。この領域とは、萎縮、妊娠、産褥期の変化、細胞融解、卵管の化生、子宮峡部および良性様の子宮内膜細胞のことを指しています。

萎縮像

閉経近くおよび閉経期に萎縮が進行すると、上皮の肥厚化が生じ、これに応じて細胞採取時に剥離する細胞数の減少を招きます。細胞の成熟化が遅れることから傍基底細胞が著明に現れるようになります。ホルモン状態が変化するなかでこのようなシフトが起きると、細胞内に含まれるグリコーゲンの量が増大し、細胞崩壊および裸核化が生じます。一般に、変性した細胞破壊物の背景には顆粒状のものが見えます。炎症性反応が見られることが多く、出血によって確認できることがあります。変性に起因する傍基底細胞の核縁に見られるわずかな変化が、異型性と過剰に診断されることがあります。萎縮の塗抹標本でASC-USないしさらに重症な病変部に細胞診を依頼するまでに、核のサイズ、N/C比およびクロマチンパターンを明らかにしておくことが重要となります HSILが共存する萎縮の症例では、異型細胞からなる小集団があるとN/C比の増大が見られ、過染および核膜の不規則性が認められます。

妊娠

従来法によるパパニコロー標本もThinPrepスライドも、妊娠などホルモンの過剰な影響を受けたことによる細胞の出現パターンはいずれもよく似ています。妊娠中は、グリコーゲン保有細胞とHPVに起因する変化を伴うコイロサイトを適切に鑑別するよう注意する必要があります。これは、核の不規則性によって鑑別するのではなく、グリコーゲンに基づく空胞変化とHPVによる核異常および核周囲空洞化の所見を鑑別するものです。

産褥期の変化

産褥期ないし授乳期には、扁平上皮細胞の成熟化を遅らせるホルモンパターンが優位になります。傍基底細胞が多く見られますが通常は単離して出現します。 このほか、グリコーゲン保有細胞が認められます。 炎症性細胞の背景と反応性変化が見られると、追検査が必要になります。(N/C比の増大がなく、クロマチン異常も核膜異常も見られないなどの)細胞学的基準にあまり固執すると、細胞性異型の過剰診断を妨げることになります。

Image 10
産褥期
産褥期の傍基底細胞を高倍像でみたもの。グリコーゲン保有およびN/C比の低下が見られることに注意。 60倍
産褥期
産褥期の傍基底細胞を高倍像でみたもの。グリコーゲン保有およびN/C比の低下が見られることに注意。 60倍
Image 11
産褥期
産褥期のサンプルに見られるHSIL。低倍率でも傍基底細胞に比べてN/C比が高く、HSIL細胞にクロマチンの異常が認められることに注意。 20倍
産褥期
産褥期のサンプルに見られるHSIL。低倍率でも傍基底細胞に比べてN/C比が高く、HSIL細胞にクロマチンの異常が認められることに注意。 20倍

細胞融解

ThinPrepスライドでは、低倍率でも裸核、表層細胞、中層細胞および乳酸菌による細胞溶解の原因となるデーデルライン桿菌によく見られるパターンを確認することができます。桿菌は粘液に付着しているときも、扁平上皮細胞を覆っているときもあります。

卵管の化生変化

卵管の化生は、多形核および過染性を伴う円柱上皮細胞にN/C比の増大が見られることを特徴です。従来のパパニコロー染色標本と同様に、卵管化生に由来する細胞はまれに異型子宮内頸部細胞と間違われやすく、in situ(上皮内癌)では腺癌に見られることもあります。過剰診断を避けるには、明瞭な細胞質内空胞、刷子縁および繊毛の有無を確かめます。

子宮峡部

提供者による標本採取に関する監視が高まるにつれて、積極的サンプリングを実施すると頸膣部サンプルに子宮峡部由来の細胞が混入するようになります。一般に、子宮峡部由来の細胞はバラバラの細胞ないし小集塊よりも組織断片の形で出現します。この断片には核と核小体が整然と並んでいます。 断片が互いに折り重なって立体構造を形作るように見えます。

良性子宮内膜細胞の変化

子宮内膜細胞は核および細胞質の大きさに幅があるほか、構造にもばらつきが見られます。ThinPrep溶液中で丸くなりがちです。核は保存状態が良く、明瞭で活動的なクロマチンを含む収縮状に見えます。クロモセンターはしばしば目だって見えます。

ベセスダ2001では、病歴の有無によらず、40歳以上の女性に良性に見える剥離内膜細胞のことを記載するよう推奨しています。ベセスダ2001の目録には、この目的から「その他」という一般分類を組み入れています。表層から剥離した子宮内膜細胞として捉えたとき、組織球、間質細胞および擦り取られた子宮内膜細胞がもつ重要度は等しくなく、同じ状況下のものであると考えてはいけません。子宮内膜細胞の同定は、月経との関係によらず、閉経後であっても良性像を呈することが多いですが、子宮内膜に異常を来すリスクが指摘されています。

微生物感染およびその他の非悪性所見

従来のパパニコロー染色標本とThinPrepスライドに見られる病原体に関連する細胞変化を見ることは、ThinPrepの処理工程で用いられる固定液が良好なため、従来のパパニコロー染色標本によく見られる病原体は、どれもThinPrepスライド上で簡単に検出できます。ThinPrepスライドをスクリーニングするときには、前後状況からみた大体のパターンが標本処理中に維持されており、確認することが可能です。

膣トリコモナス

ThinPrepスライド上では、従来のパパニコロー染色標本に見られる乾燥した病原体よりもトリコモナスがやや小さめに見えます。迅速固定するため、ThinPrepスライドは診療所で用いられる「湿固定」に類似するものになります。

比較的小さいですが、病原微生物は特徴的な内部構造を保持しており、診断のよりどころとなる鞭毛を保持していることが多く見られます。T.vaginalisの検出にはThinPrepスライドに見られるふたつの所見が有用なものとなります。トリコモナスは、独立した病原微生物、著明な集塊傾向、微小なコロニーのいずれかを呈することが多く、上皮細胞を覆っていることもあれば、これと共に塊りを形成することもあります。

カンジダ種

扁平上皮細胞の細胞質が折れ曲がり重なりあいは、ThinPrepスライド上にカンジダ種が存在することを知る最初の手がかりになります。仮性菌糸および出芽酵母が保持されており、容易に検出されます。染色には、患者の生物学的環境によって無色~好酸性~灰褐色までの幅があります。検査室では、ThinPrep法の採用によりカンジダ種の検出率が高まっています。

単純ヘルペスウイルス

ヘルペス感染症に見られる従来の特徴は、ThinPrepスライドにも十分保持されており、確認することが可能です。多核形成、鋳型核、スリガラス様クロマチン、核縁クロマチンの明瞭化、核内ウイルス封入体などの細胞性変化が診断の助けになります。

放線菌

糸状菌に付いている柔らかく密度の濃い分枝に菌塊が付着していると、容易にこの病原微生物を確認できます。放線菌感染は、子宮内避妊具(IUD)またはペッサリーを使用しているときに好発します。

IUDによる変化

IUDを装着した患者には、単離した腺細胞ないし腺集塊が見られ、N/C比が増大することがあります。核小体が存在して細胞質の空胞化が著明に見られると、細胞が印鑑細胞の様相を呈するようになります。AGUSの過剰診断を下されないようにするには、細胞変性が患者の病歴に相関するものである必要があります。このような変化は、放線菌感染との因果関係が考えられることがよくあります。

細菌性膣炎を示唆する細菌叢のシフト

正常な乳酸菌を欠く状態では、扁平細胞が球菌に覆われます。細菌性膣炎の診断は、細菌培養によって確認します。

慢性濾胞性頸管炎

リンパ球に染色性マクロファージが随伴すると、慢性の炎症状態であるか、サンプル採取中にリンパ濾胞からはみ出した破裂した可能性が示唆されます。ThinPrepスライドでは一般に、慢性濾胞性頸管炎由来のリンパ球が密集して小集塊を形成しています。染色性マクロファージの存在が診断の助けになります。

放射線の影響

放射線照射後には、従来のパパニコロー染色標本に見られるものと同じ変化がThinPrepスライドにも見られます。細胞が長大化して多核形成を来し、空胞化、二色分散のほか、クロマチン変化が起こります。このほか、炎症性細胞の取り込み像が見られます。

炎症を伴う萎縮

萎縮性の患者に由来する従来のパパニコロー染色標本には、一般に顆粒状崩壊物からなる均一の背景が見られます。ThinPrepスライドを用いると、崩壊物による細胞背景は維持されますが、萎縮した上皮に沿って小さな菌塊となって集まることが多く見られます。

脱落膜変化

妊娠後期(または産褥期)の患者由来細胞には、高度の異形成に類似する変化を示すことがあります。ThinPrep法にみる脱落膜変化の形態学的特長は、従来のパパニコロー染色標本にみる特徴に類似するものです。

修復細胞

ThinPrepスライドの修復過程細胞についての判定基準は、ベセスダシステム(1994年)に列挙されている基準に類似するものです。
  • 核の肥大が最小限度であること(正常な中層細胞の核に比べて1.5~2倍まで)
  • 2核および多核形成が見られること
  • 軽度の過染が見られること
  • クロマチンが細顆粒状になって均一に分布すること
  • 核濃縮および核崩壊が見られること
  • 核膜の円滑化が見られる
  • 著明な核小体ががひとつあるか、多数存在する。
  • 極性を維持したまま平坦なシート状になる。液状では集塊が丸くなる
  • 分裂像および単離細胞が見られる
  • 好中球、炎症性変化を随伴するほか、微生物が見られることが多い


参考文献
  1. Biscotti CV, et al: Thin-layer Pap test vs conventional Pap smear: Analysis of 400 split samples. J Reprod Med 2002;47(1):9-13.
  2. Lee KR, et al: Comparison of conventional Papanicolaou smears and a fluid-based, thin-layer system for cervical cancer screening. Obstet Gynecol 1997;90:278-284.
  3. Solomon, Diane, et al: The 2001 Bethesda System, terminology for reporting results of cervical cytology, JAMA 2002;287(16): 2114-2119.

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